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藤沼敏子さんと4冊の『証言集』の紹介

第24回日本自費出版文化賞(日本グラフィックサービス工業会主催、朝日新聞社など後援)が2021年9月8日に発表され、藤沼敏子さん(埼玉県川越市)の『あの戦争さえなかったら62人の中国残留孤児たち』の上下巻が大賞に選ばれました。

藤沼敏子さんは、2019年7月に、最初の証言集『不条理を生き貫いて34人の中国残留婦人たち』を出版し、翌年7月には『あの戦争さえなかったら62人の中国残留孤児たち』の上下巻、併せて3冊の証言集を出版しました。これらの証言集では、中国残留孤児・残留婦人をはじめ、サハリン残留邦人などを含め、支援者等の協力を得て、200人以上の人から聞き取り(インタビュー)を行い、その証言を纏めています。

そして今年の夏(2021年7月)、4冊目の証言集として『WWII 50人の奇跡の命』(津成書院)を出版しました。ここでは元満蒙開拓青少年義勇隊(軍)・元従軍看護婦・元軍人・サハリン残留者・沖縄、台湾、満州からの早期帰国者の証言を取り上げています。

全4冊の証言集

これらの書籍に寄せられた推薦の言葉を通して全4冊の紹介をします。

 

【人間文化研究機構国文学研究資料館准教授 加藤聖文氏】

藤沼敏子さんは、これまで中国残留孤児を始め200名を超える人たちから苛酷な戦争体験を聞き取ってきました。一人の市民が戦争と向き合いながらコツコツと集めてきた証言は、敗戦から75年も過ぎていよいよ戦争の記憶が遠ざかるなか、むしろ歴史的価値を帯びてきています。戦争体験を聞き出すだけではなく、それを後世に伝えるために残していこうという強い意志は、この問題に関心を持つ人たちに大いに刺激を与え、これから進むべき道標となるでしょう。

 

【国立民族学博物館名誉教授総合研究大学院大学名誉教授 出口正之氏】

このライフワークの素晴らしさはホームページにインタビューの動画そのものを載せて、立体的な構成となっていることである。台湾などの海外を含む全国へ出向いてのインタビュー。優しい語り口、話を引き出す相槌の適切さ等々、本書のしっかりとした背景まで残されている。それにしても藤沼さんのこのライフワークに懸ける執念には舌を巻く。小生が藤沼さんの情熱に最初に触れてからすでに四半世紀にもなる。その執念は、証言者に対して研究対象として接したのではなく、一人一人に対して藤沼さん自身もそういう運命のもとに生まれていたかもしれないという運命の重ね合わせから生まれたものではなかろうか。一つ一つの語りの中にしっかりとした歴史があり、若い世代の方々だけではなく、まだ生まれて来ぬ次の世代の方々にとっても、第二次世界大戦の影響を知る大きな書籍となることと確信している。

 

【成蹊大学名誉教授シベリア抑留研究会代表世話人 富田武氏】

インタヴュー前の準備、インタヴューそのもの、テープ起こし、原稿化と、大変な仕事であることが窺え、何よりも、それを出版して後世に伝えたいという熱意を感じ取ることができた。帰国者たちが高齢化し、記憶も薄れてくるための困難も、抑留体験者のインタヴューを経験した私には十分に想像された。藤沼さんはこの度3作目を、残留孤児・婦人より対象を広げ、軍人、満蒙開拓青少年義勇隊員、従軍看護婦と職業・年齢を多様にし、満洲だけではなく、サハリン(樺太)等からの引揚者も含め、また早期引揚者と長期抑留・残留者の差異に留意するなど、多面的な視角と構成で出版される。戦争と抑留、難民を統一的に理解するよう心がけてきた会としても、大いに期待するところである。

 

【法政大学教授 高柳俊男氏】

ここで何よりも強調すべきは、彼女がかつて満州(中国東北部)で暮らした体験者を全国に訪ね歩き、200人前後から聞き取りを行い、その映像を自身のホームページ「アーカイブス中国残留孤児・残留婦人- 2 -の証言」(https://kikokusya.wixsite.com/kikokusya)上にアップするという、地道な作業を永年にわたって続けてきたことである。そのことを知り、実際に映像のいくつかを見るに及んで、私は正直圧倒された。

研究機関に籍を置く恵まれた立場の研究者でもないのに、どうしてここまでできるのだろうか?。もちろん、こうした作業を可能にする前提として、時間的な余裕や一定の経済的な裏付けは必要かもしれない。

しかし、日本の満州政策の下で過酷な人生を送らざるを得なかった人々の声に耳を傾け、それを聞き書きとして残さねばという強い意思、さらには一種の使命感のようなものがなければ、そもそも不可能な営みなのではないか?。それ以来、私にとって藤沼さんは、一目も二目も置く人物であり、脱帽の対象であり続けている。また、『WWII 50人の奇跡の命』の「おわりに」の中で、彼女は以下のように記している。

私たちは誰も、生まれた場所・時代を選ぶことはできません。自分の置かれている世界が、どのようなものであるか、豊かさの尺度や幸不幸の尺度、自由度などの尺度をそれぞれの生育環境から育まれた尺度を当てはめて測ろうとします。私は、中国残留孤児・残留婦人たちに出会うこともなく、取材をすることもなかったならば、「自分の力ではどうしようもない事情がある人」が世の中に多数存在していることを知ることはできなかっただろうと思います。「努力は必ず報われる」「自分の人生を切り開くのは自分自身の責任だ」と、聞かされ、疑うことなく大人になりました。取材を通して「自分の力ではどうすることも出来ない」不条理を生きざるを得なかった中国残留孤児・残留婦人たちの存在を知りました。理不尽にも旧満州(現中国東北地方)に置いてきぼりにされ、数十年、日本に帰る手立てもなく中国社会で生き貫いてきた彼らの慟哭を聞いてしまいました。日本人でありながら日本語を流暢には話せず、読み書きもおぼつかない。長い間「声をあげること」も出来なかった彼らの、「声を残すこと」が、私のやりたかったことでした。(~中略~)奇跡的に今を生きている彼らと、彼らにつながる死者たち(WWⅡで亡くなった人たち)の歴史は、単なる数(死者数)としてのみ認識、記憶されるようなものであってはなりません。その無念だっただろう思いを、私たちはどう受け止め、どう意味づけし、記憶していくのか。国家の記憶と個人の記憶との間には、抜き差しならない齟齬があり、深い断絶が存在していると感じています。国家が忘却してしまったかのような歴史を、個人の記憶から掘り起こして記録し、個人の記憶が国家の記憶に掠め取られることのないように、「何があったのか」という生の声を残しておきたいと思います。(了)

 

 

以上のとおり、それぞれの先生方から、広範な取材と中味の濃い素晴らしい「聞き取り証言集」だとの推薦をいただいています。

著者藤沼敏子氏が、聞き取り取材の中で得た「思い」、そして特別な関心を持って調べ上げ記述された「証言の背景」等、満蒙開拓記念館を有する飯田日中友好協会では、「中国帰国者への理解を深める活動」や「平和の尊さを次代に伝える活動」として、今後の取り組みに活かしていきたいと考えます。

会員をはじめ多くの皆様がお読みくださるようお薦めします。

 

◇『不条理を生き貫いて、34人の中国残留婦人たち』

(2019年7月13日/発行津成書院552P 定価2500 円+税)

 

◇『あの戦争さえなかったら、62人の中国残留孤児たち(上)』

~北海道・東北・中部・関東編~

(2020年7月12日/発行津成書院579P 定価2500 円+税)

 

◇ 『あの戦争さえなかったら、62人の中国残留孤児たち(下)』

~関西・山陽・四国・九州・沖縄・中国の養父母編~

(2020年7月12日/発行津成書院454P 定価2500 円+税)

[寄稿伊那谷の中国帰国者と共に/飯田日中友好協会理事長小林勝人]

 

◇『WWⅡ 50人の奇跡の命』

(2021年7月10日/発行津成書院739P 定価2,000 円+税)

証言者*元満蒙開拓青少年義勇軍9人*元従軍看護婦3人*元軍人3人

*サハリン残留10人*沖縄4人*台湾8人*満州からの早期引揚者13人

*ご注文はお近くの書店にお願いします。

津成書院問い合わせメールは、tsunarisyoin@gmail.com

 

(文責 飯田日中友好協会理事長 小林勝人)